宮沢章夫

初見でした。特講に参加した。めちゃくちゃ恐いひとだと思っていて、立川談志的なイメージあったけど、ぜんぜん違った。背が小さいせいか、何を言っても虚勢のブリングブリングで、荒くれぶっても言葉の節々に素養がにじみでる感じ。単純に年功かもしれない。見るひとが見たら「かわいい」かもしれない。


芸学主催の特講は、毎回ゲストの人選が凄く良い。ちょっとマイナーな小説家や映画監督が来ることもある。宣伝が地味で、みんな知らなくて、ひとはそんなに集まらない。けど、芸学棟の小さい教室でしれっと行われているというところがなんか良いなといつも思う。


宮沢さんは「話したいことがいっぱいある」と言っておられて、時間がないせいもあって、次々論題が移った。学生時代から仲が良い竹中直人と、いとうせいこうについて触れながら、道化と身体論。それから三十年代、六十年代、八十年代のサブカルチャーをおさらい。いちばん興味深かったのは「文化的ヘゲモニー」というキーワードで、安部公房太宰治日本共産党に属していたころの時代背景など。宮沢さんは要所要所で説明を省くから、聴衆に脳内補完を要求しておって辛かった。自分が無知過ぎて泣けた。六十年代の若者たちが本格的に創り手になるのは、八十年代に作家や学者やコピーライターとして日本のサブカルチャーを席巻し始めてからで、ゆえに、八十年代の消費文化というのは彼らが生み出したものだよ、ということを言っていた。つまり六十年代の反乱の時代を経ているから、年長の作家らは想念が根深いのだな、という部分は少し繋がった気がした。安部公房司馬遼太郎五木寛之石原慎太郎寺山修司などの世代である。濃過ぎる。


特講としては少し滑ったけど、またどこかで話が聞きたいなと思った。生の言葉で教えてもらうほうが絶対に面白い。本のなかのひと、テレビの向こう側のひと、という意識でいたら隔てがあるから、「私も芸の人間だ」の一歩としてその世界のひとに会いにいくのは凄く大事。




役者の条件は遅刻しないこと
作家の条件は締切を守ること
ー by 宮沢章夫