トレース

もうすぐ中間採点の日。でも、作業部屋の空気は言うほどピリピリでなく、なんだか重めの、お疲れというか、迷走気味なムード。ほとんどのひとがイヤホンをしているが、周りの音も聞いているのか、昼食や夕食のタイミングがそれとなく合う。


おっきいトレース台をテーブルにしてごはんを食べているとき、下のライトを付けてみたら、お茶のペットボトルが商業写真ばりの見栄えをして幻想的だった。タムタムは、今日もお弁当を持参していて、おばあちゃんの手作りなのだそう。おにぎりのときもそう。タムタムとおばあちゃんのあいだに、丸いのは梅干し入りで、三角いのは昆布入りという暗号があるのらしい。リュックから出すころには少し歪んでしまい、ささやかな違いではあるものの、こっちかなこっちかなと言って順番を決めるところが印象的。中身を知って齧ると、いっそう美味しいのかもしれない。だとすれば、暗号は食べるひとへの愛情。


トレース台で下絵を写したり、何かを描いているとき、ぼんやりジブリのことを思い浮かべる。こどものころ、ジブリのドキュメンタリー番組で、セル画の制作風景を見たことがあって、それと似ている気がした。しんとした部屋で、何人かが同じように作業していて、ライトに当てながら絵をぱらぱらさせる乾いた音とか、画材が散らばっている感じとか。あのときに見知った手元と、自分の手元が、乳白色の光のなかでシンクロすることがある。眠たいときなどは 特に。