個人的に好き

このわたしに文章を添削されるなんて、かわいそうな受験生、と思いつつ今年は本格的にやることになった。
夏期講習へ向けて課題プリントを作成中。そろそろ志望校別の専門実技をはじめる。自分の担当に映像志望の一浪生がいるので、作文というか構想表現というかそういう課題を出すことになった。そしてわたしが赤入れを行う。なぜ可哀想なのかと言うと、それはわたしが素人だからである。結局のところ、「これはこれでいい」と言ってあげるしかない。何かを目指しているひとが、まして自分より若いひとが一生懸命書いたものに、欠点なんて無いと本音では思う。


去年度の入試直前、ベテラン先生の代理で一度だけ、生徒の作文を講評する機会があったけど、何も指摘するところがなかった。デッサンもそうだけど、美大の入試は才能じゃなくて訓練だから、正確な打ち返し方を学ぶ方法はあれど、答えはひとつじゃないし。


今でも忘れられない、あのときの作文について。お話の味噌になっていたところは、友達とケンカ別れして電車に飛び乗った女の子がドアの手すりに掴まってそれをじっと見つめるシーン。【ステンレスのその細い円柱には、背中越しに景色が電車の進行方向と逆に流れていくのが写ってた】みたいな表現があった。気持ちと裏腹な言葉を吐いたり、友達にわざと冷たくしてしまった女の子の心情が描かれているようで、とても良かった。生徒には「悪いところ百個挙げてください」と言われるも、最終的には「個人的に好き」とまとめてしまった。渦中の本人にはわからないかもしれないが、不完全性だって彼らの魅力だと思う。


ちなみに「個人的に好き」は、わたしが現役のころ言われて嬉しかった言葉である。講評会で講師(アズさん)が「お前、これどう思う?」と、わたしのヘボい絵を指差して浪人生(相曽さん)に振ったところ、「良いかどうかわからないけど個人的に好きです」と言ってくれた。とても救われたのだった。




荒々しくて率直で、未完成で、聖司のバイオリンのようだ
雫さんの切り出したばかりの原石を、しっかり見せてもらいました
よくがんばりましたね、あなたはステキです
— via「耳をすませば