原寸

「君たちが大学に来るわけは、1ぶんの1スケールで勉強するためにある」と高橋先生が言うように、学生は非常に大きなパーソナルスペースを学校に有しています。それだけ制作環境に恵まれているということです。確かに自分の部屋では1m定規で線を引くことも、筆を振りかざしてスパッタリングすることも難しい。そして何より、目が近いのです。「作品を離して見なさい」とはよく言われたもので、B3サイズを相手にしていた受験生のころには恐らくみんな習慣化している行程だと思います。「空間⊇作品」を意識するために、いわゆる客観視とは別のモチベーションで見る視点が大切です。言わば客観的(フラット)に見るのではなく、本質を探る(インサイト)というような。


作家が書きかけの小説を電車の中で読んでみるように、又はミュージシャンがデモテープをカーステレオで流して走ってみるように、作品が作品本来の居場所で羽をいちばん大きく広げた状態のスケールを試して見定めてあげるのも、制作における大切なプロセス。机上のエスキースやサンプルでは分からないことが、モノの原寸を見ることで分かってくる。


高橋先生は以前、学内の広場にある芝生にシルクスクリーンを並べて講評会をして下さいました。私はそのとき初めて本当のスケールを認識したというか、シルクの圧倒的な存在感に感激してしまいました。シルクはデザイン画から下書きからフィルムから何から何まで原寸で作るので、机で描くことは愚か、持ち帰ることも困難なため、棟でいちばん大きな教室の壁に張り付けて制作したのですが、そのときはなんて大掛かりなサイズだろうと厄介に思っていました。しかし大空の下では、あの大判な柄も彩度の高い色味も良く映えていました。シルクの本当の魅力を理解したのと同時に、視野も広がったように思います。私たちは、ふでばこに入っているモノサシなんかでは計り知れないスペクタクルと、常に隣り合わせであると言えます。それを発見するのは、私たち次第。