医療保険に入ろうと思って、知り合いのかたの会社で見積りをもらったときに聞いたお話。死亡保障の意味。

単純にお葬式代や、あとに残される妻や子供の生活費のために、という考え方だけではないのらしい。


「世帯主という訳ではないから、無くて良いです」と言って一番シンプルなプランで見積もってもらったのだが、そうじゃなくて、私みたいな若い人が死んだ場合、死んでごめんなさいという親に対する孝行の意味合いがあるのだそうだ。受取人が親である間は、ここまで育ててくれた両親に対するせめてもの。さらには、この先の面倒を見てあげられなくてごめんなさいという意味もあるのだそうだ。どのみち自分の予算では無理で、そんな保証は付けられないのだけど、だんなさんと暮らすようになってから守るべきものや家庭など、大切なことがどんどん明白になってゆく。


このまえ、未映子が朝の番組に出演していました。休日のだんなさんがのんびりテレビを見ていて発見し、「英子の好きな川上未映子が出てるよ〜」と言った。この週は休みが合わなくて私は仕事に行く支度をしていて片手間に見た。未映子は蝋人形みたいな肌で少し痩せた感じ。どのインタビュアーも、おんなじ質問ばかりしている。もうテレビに出なくて良いような気がした。口で言っても誰にも伝わらない。





最終的な拠りどころは「性善説」ではないだろうか。
社員の机のまえに、各自の母親の写真と、
自分の赤ん坊だった時の写真を貼るように義務づけるのが、
いちばんの不正防止策としか私には思えない。
おまえの胸に聞いてみろ、というやり方だ。


― via「重力ピエロ」伊坂幸太郎




トートバッグから原稿の入った封筒を取りだして聖に渡した。
今回の原稿は単行本にして六百ページも分量があるもので、片手でもつと手首がぐらりとするくらいの重さがあった。
聖は両手でそれをもって、その厚みと重さを確かめるみたいにして首を軽くふり、わたしをみて笑った。
「信じられる? 人が人に向かって、こんなにも言いたいことがあるなんて」


― via「すべて真夜中の恋人たち」川上未映子